不倫をめぐる法律問題(1)

こんにちは。弁護士の三谷です。本日はみなさまも関心があるかと思われます不倫をめぐる法律問題について一筆取らせていただきました。


1 婚姻と結婚

 日本では一夫一婦制です(民法732条)。複数の配偶者をもつことはできません。重婚になる後婚の婚姻届けは受理されません(民法740条)し、たとえ受理されたとしても、無効ではありませんが、後婚は取り消されることがあります(民法744条1項。大判昭和17・7・21)。


 いやいや、取り消されるどころか、重婚罪で2年以下の懲役に処せられます(刑法184条)。婚姻届けが同時に二重にされている状況になくても、妻との協議離婚届けを偽造して市町村役場に提出し、戸籍簿にその旨の不実の記載をさせたうえ、愛人との婚姻届けを提出し、その旨を戸籍簿に記載させたときでさえも、重婚罪が成立するのです(名古屋高判昭和36・11・8)。


 ところで、一般に結婚といったりしますが、結婚と普通に言う場合には、正式に婚姻届けを出した場合以外に内縁関係の場合も含まれるでしょう。法律では婚姻といって、結婚式など関係なく、戸籍法の定めに従って、婚姻届けを出した場合のみをさしています。最判平成7・3・24は、恩給法72条1項にいう「配偶者」は婚姻関係にある者に限ると解しています。


 ただし、健康保険法1条2項1号などの社会保障関係の法律では、事実上の配偶者を含むことを明文で規定しています。大阪地判平成3・8・29は、国家公務員の死亡退職金の受給権者を内縁の妻とし、共済掛金還付金、埋葬料の受給権者を相続人としました。婚姻届けを出してはじめて、法律上は婚姻関係にあることになるのです(民法739条)。婚姻届けを出していなければ、法的には夫婦ではなく、相手方が死亡しても相続権はないのです(民法890条参照)。



2 不倫相手に対する慰謝料請求

 外に女をつくれば、いきおい男は家庭を振り向かなくなるものです。妻子が怒るのも、無理はありません。さあどうするか。妻子がとる手段の1つは、不倫相手の女性を訴えることです。妻は、妻としての権利を夫の不倫の相手方が侵害した、という理由で不倫相手に対して慰謝料請求をすることが考えられます(民法710条)。また、未成年の子供は、父親の愛情、監護、教育を受ける権利を侵害されたとして、同じく慰謝料請求をすることが考えられます。なお、2022年(令和4年)4月1日から満18才で成年となります(民法4条)。


 最判昭和54・3・30(民集33巻2号303頁*)の事案は概略、以下のとおりです。

 1957年(昭和32年) 訴外A男は、ホステスをしていたY女と知り合いました。当時、Y女はA男に妻子がいることを知りつつ、相互の「自然の愛情によって」肉体関係をもつに至り、Y女はB女を出産し、A男はB女を認知

 1964年(昭和39年) 妻X1 に同事実を知られ、A男は別居

 1967年(昭和42年) A男は、Y女と同棲を始め、妻X1 と別居後、A男は毎月数万円を妻子に送金し、Y女には同棲後も金銭的援助なし


 このような事実関係のもとに、妻X1 と未成年の子供X2・X3・X4 は、Y女を被告として、慰謝料請求訴訟を提起しました。最高裁は、妻X1 の請求を認めましたが、子供たちの請求を認めませんでした。まず、妻X1 の請求については、


「夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持つた第三者は、故意又は過失がある限り、右配偶者を誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか、両名の関係が自然の愛情によつて生じたかどうかにかかわらず、他方の配偶者の夫又は妻としての権利を侵害し、その行為は違法性を帯び、右他方の配偶者の被つた精神上の苦痛を慰謝すべき義務があるというべきである。」

と肯定判断しています。


 しかし、妻の言動いかんによっては、慰謝料請求を否定されることもあります。離婚意思を直接伝えたり、夫の不利相手の女性の店に出かけて嫌がらせをしたり暴言を吐いたりしたために、妻からの慰謝料請求を信義誠実の原則に反して権利の濫用であるとして否定した最判平成8・6・18もあります。

 つぎに、子供たちの請求については、

「妻及び未成年の子のある男性と肉体関係を持つた女性が妻子のもとを去つた右男性と同棲するに至つた結果、その子が日常生活において父親から愛情を注がれ、その監護、教育を受けることができなくなつたとしても、その女性が害意をもつて父親の子に対する監護等を積極的に阻止するなど特段の事情のない限り、右女性の行為は未成年の子に対して不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。けだし、父親がその未成年の子に対し愛情を注ぎ、監護、教育を行うことは、他の女性と同棲するかどうかにかかわりなく、父親自らの意思によつて行うことができるのであるから、他の女性と同棲の結果、未成年の子が事実上父親の愛情、監護、教育を受けることができず、そのため不利益を被つたとしても、そのことと右女性の行為との間には相当因果関係がないものといわなければならない。」

と判示し、本件では特段の事情も認められないとして否定判断をしたのです。

 この特段の事情は、子供たちが立証しなければなりません。

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