不倫をめぐる法律問題(2)

こんにちは。弁護士の三谷です。本日は以前お話した『不倫をめぐる法律問題』の続きとなります。前回はこちらから読めます。


3 配偶者からの請求


 不貞をはたらいた者は、不貞相手から訴えられないなら安心だ、と思うでしょうが、そうは問屋がおろさないのです。


 夫の不貞行為は、本来は不貞をはたらいた夫と相手方の女性との2人による共同不法行為なのです(民法719条)。夫婦がお互いに貞操義務を負うかどうかについては明文規定がありませんが、不貞行為は離婚原因となる(民法770条1項1号)ことから、相互に貞操義務(守操義務)があるものと解されています。


 

 したがって、不貞行為をした配偶者も、貞操義務に違反しているわけですから、他の配偶者から慰謝料請求をされることもあるのです。実際には、そういうことはまれでしょうけれども、不貞行為の相手の男の子供を出産した妻に対する夫からの慰謝料請求を認めた東京高判平成7・1・30や、妻と不貞行為をした男の両名に対して、夫権侵害による共同不法行為に基づく損害賠償として夫に対し連帯して金200万円(請求金額は300万円)の慰謝料を支払うよう命じた東京高判昭和51・10・19もあります。前者の東京高判平成7・1・30は、妻の不貞相手と目される男性も被告としていましたが、子供の父との確信が得られなかったため、その男性に対する請求を棄却した第一審判決を是認したのに対して、妻に対する1000万円の慰謝料請求については、300万円の範囲で是認しました。


 

 ところで、前述のように、不貞行為はそもそも離婚原因です。


 

 両性の合意のみに基づいて婚姻は成立するのであり、離婚するにも協議離婚が原則です。しかし、不貞行為を反省し、もとの鞘に納まりたいとして、協議離婚を拒否しても、裁判離婚を求められると拒否できませんし、大阪地判昭和62・11・16のように、不貞をはたらいた夫が交通事故により身体障害者(第一級)となり、自活能力を喪失した場合でさえ、妻からの離婚請求が認容される、というみじめなことにもなりかねないのです。この交通事故は、愛人と愛人に産ませた新生児に面会するため、オートバイを運転して同女らの入院している病院へ行く途中、大型貨物自動車を無理に追い越そうとして起きたもので、脳挫傷・脳内血腫・脳脱等の重傷を負ったのでした。


 

 場合によっては、離婚前でも、妻の所有家屋から追い出されて、住居を失うこともあります。不倫ではありませんが、婚姻破綻の原因行為をくり返した夫に対する家屋明渡請求を認めた徳島地判昭和62・6・23は、一般論として、夫婦共同生活の本拠である住居は夫婦の同居義務から原則として明渡しを請求できないと解していますが、婚姻関係破綻の原因は主として被告の夫にあり、本件明渡請求の当否については、本件では例外に該当することを認めて、本件建物明渡しに仮執行宣言(民訴259条1項)もつけています。
  したがって、すぐに強制執行ができるのです。また、妻の父からのせっかくの支援金贈与も撤回され、返還をよぎなくされることもあります。大阪地判平成元・4・20はそのような事案で、信義則を適用して贈与の撤回を認めています。なお、このような履行済みの贈与について、別の構成から解除を肯定した最判昭和53・2・17は、贈与者の老後の面倒をみさせるなどのためにした贈与が、受贈者において、老齢に達した贈与者を扶養し、円満な養親子関係を維持し、その恩愛に背かないことを義務とする負担付贈与(民法553条)であると解して、その義務不履行を理由とする解除を認めた東京高判昭和52・7・13を是認しています。


 

 こうなれば、踏んだり蹴ったりだ、と自分のことを棚に上げて逆恨みして嘆く余裕さえありません。そういえば、世の中、優しくすればつけあがり、思い上がって逆恨み、挙げ句の果てに嫌がらせ、とくる手合いが多くいるもので。それはともかく、不貞行為を理由に離婚を請求されるのですから、そこには当然のことながら、離婚慰謝料を支払わされることになります。離婚ということになりますと、財産分与もしなければならず(民法768条)、全体として性格不一致などを理由とする納得づくの協議離婚の場合をはるかに超える額を支払わされることになります。最判昭和46・7・23は、財産分与だけで慰謝されない場合には別に離婚慰謝料請求が可能であることを認めていますし、なかには、同じく離婚原因である悪意の遺棄(民法770条1項2号)も加わり、不貞行為をした夫に対して離婚慰謝料として1000万円の支払い、1億円および土地(時価約5000万円)の財産分与を命じた横浜地判昭和55・8・1まであります。


 

4 不倫相手からの請求

 もとにもどって、さらにさらに、別の問題も生じえます。もしももしも妻が離婚に応じなければ、さあ今度は、不倫の相手方から、結婚を前提に肉体関係を結んだにもかかわらず、結婚をしないのですから、貞操侵害を理由として慰謝料請求されることがあります。事案によりけりですが、結婚の約束をしていない場合でも、最判昭和44・9・26(民集23巻9号1727頁*)は、女性からの慰謝料請求を認めており、


 

「女性が、情交関係を結んだ当時男性に妻のあることを知つていたとしても、その一事によつて、女性の男性に対する貞操等の侵害を理由とする慰謝料請求が、民法七〇八条の法の精神に反して当然に許されないものと画一的に解すべきではない。すなわち、女性が、その情交関係を結んだ動機が主として男性の詐言を信じたことに原因している場合において、男性側の情交関係を結んだ動機その詐言の内容程度およびその内容についての女性の認識等諸般の事情を斟酌し、右情交関係を誘起した責任が主として男性にあり、女性の側におけるその動機に内在する不法の程度に比し、男性の側における違法性が著しく大きいものと評価できるときには、女性の男性に対する貞操等の侵害を理由とする慰謝料請求は許容されるべきであり、このように解しても民法七〇八条に示された法の精神に反するものではないというべきである。」


 

と判示しています。判決文中の民法708条は、いわゆる不法原因給付の規定です。たまに新聞種となっていますが、裏口入学をさせるために、たとえば500万円を支払ったにもかかわらず、結局入学できなかった場合に、その500万円は返還請求できない、ということです(たとえば、東京地判昭和56・12・10判時1028号67頁*や東京高判平成6・3・15判タ876号204頁*)。


 

5 不真正連帯債務

 さて、ここまで不倫相手もくると、前述した共同不法行為(民法719条)について、逃げた男に対し、ある請求(求償という表現を用いると、少し法律をかじったことのある人たちには次に何が来るか予想されることでしょう)をしてくることになるでしょう。そうです、まだあるのですよ。

 ここでの共同不法行為は、夫と不倫相手である女性とが妻に対して不法行為をしたことであり、両者(夫と不倫相手である女性)が連帯して損害賠償責任を負うということです。前述の東京高判昭和51・10・19の判決主文は、


  

「原判決を次のとおり変更する。

 被控訴人と控訴人田中友子とを離婚する。

 被控訴人、控訴人田中友子間の長女田中春子(昭和四六年三月一七日生れ)の親権者を田中友子と定める。

 控訴人らは連帯して被控訴人に対し二〇〇万円を支払え。

 被控訴人の控訴人らに対するその余の請求を棄却する。

 訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを一〇分し、その七を控訴人らの負担とし、その余を被控訴人の負担とする。」

となっています。


 

一般に不真正連帯債務といわれます。たまたま、前述の事例では、妻が夫の不倫相手の女性だけを訴えたにすぎないのです。共同不法行為の場合には、通常は、不法行為をしたどの人物を相手にしても損害額の全額を請求できるのです。そうすると、請求されなかった者は、自分にも責任のある行為について全然賠償責任を負わないのでしょうか。いや、そうではありません。

 

不真正連帯債務においては、求償権はないとする考え方もありますが、通常は、夫と不倫相手の女性は、責任を半分ずつ負うと考えておいたほうが無難でしょう。つまり、不倫をした女性は、損害賠償額全額を妻に賠償すれば、その半額を夫に求償することが認められるのです。そうです。結局、不貞行為により妻の権利を侵害した責任は、やっぱりここでもとらされることになるのですよ。

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