上告理由書提出強制と弁護過誤

控訴状、上告状、再審訴状の提出に関して

こんにちは。弁護士の三谷です。最近、日本経済新聞のWeb記事に「横浜事件の国賠訴訟、「弁護団のミス」で上告却下」というのがありました(記事はこちら)。これを題材に少し民事訴訟法の話しを。

 

今回の内容は基本的には、以前私が書きました三谷忠之「控訴理由×上告理由×再審理由」法学教室112号36頁~37頁〔比較で学ぶ民事訴訟法15〕(平成2年1月1日、有斐閣)に依拠しています。Web記事の弁護団長が、昨年(平成30年)に不貞慰謝料請求訴訟を提起したときの相手方弁護士であったので、取り上げることにしました。

 

(1) 上告理由書

見出しに「上告却下」とありますから、上告理由に関します。今回の記事によれば、「上告理由書」の不提出が問題となっています。

 

この上告理由書に関しては、民事訴訟法315条が、

「上告状に上告の理由の記載がないときは、上告人は、最高裁判所規則で定める期間内に、上告理由書を原裁判所に提出しなければならない。

2 上告の理由は、最高裁判所規則で定める方式により記載しなければならない。」

と定めています。  

同条1項のいう上告理由書提出期間は、民事訴訟規則194条に規定があり、

「上告理由書の提出の期間は、上告人が第百八十九条(上告提起通知書の送達等)第一項の規定による上告提起通知書の送達を受けた日から五十日とする。」

と定めています。すなわち、記事にある「上告提起通知書」が送達された日から50日以内に、上告理由書を不服のある判決を言い渡した東京高等裁判所に提出する必要があったのです。上告状も、この場合には東京高等裁判所に提出することになっており(民事訴訟法314条1項)、上告状の記載事項など形式的な審査は、最高裁判所ではなく、東京高等裁判所の裁判長が行うことになっています(民事訴訟法314条2項)。


 そして、形式的な瑕疵(かし)がある場合には、最高裁判所ではなく、東京高等裁判所、判決ではなく決定で上告を却下しなければならず(民事訴訟法316条1項)、最高裁判所の負担軽減をはかっています。

 

 このように、上告状に上告理由も記載していればよいのですが、上告理由を記載していない上告状を提出していたにもかかわらず、上告理由書を提出しないと、直ちに上告そのものを却下されてしまうのです。上告理由書を提出しないと上告却下が決まってしまうため、上告理由書は、準備書面に対して確定書面といいます。

 

(2) 控訴理由書

 控訴理由書も、上告理由書と同じように提出を強制する規定があります(民事訴訟規則182条)。

 では、控訴理由書も、50日の期間を経過すると控訴を却下されるのかといいますと、却下されないのです。そこが上告理由書不提出の場合と違うところです。

 控訴理由書の提出については、親規定の民事訴訟法には定めがなく、規則で初めて出てきます。前述のように、上告理由書は親規定の民事訴訟法315条1項で強制されています。

 したがって、控訴理由書の提出期限を守らなかったからといって、控訴が却下されることはないのです。控訴理由書は、確定書面ではないのです。要するに、控訴理由書の場合は、集中審理の準備のために要求されているにすぎないのです。

 

(3) 再審訴状

 もう1つ比較検討するべきものがあります。それは再審訴状です。

 控訴と上告は、未確定の判決に対する不服申立方法ですが、再審の訴えは、確定判決に対する不服申立方法です。

 上告は、第一審と控訴審の2つの審級を経た判決に対するものですから、控訴理由よりも厳しくなっています。そうすると、自然と理解できるでしょうが、再審の訴えは確定判決に対するものですから、上告よりも厳しいのです。つまり、上告の場合は、上告状に上告理由をきさいするか、記載していなければ上告理由書の提出強制があります。しかし、再審の訴えの場合には、不服の理由(再審事由)を再審訴状自体に記載することが要請されているのです(民事訴訟法343条3号)。

 

 したがって、再審訴状に再審事由を記載していないと、補正命令が出されるとは思いますが、それも無視すると、再審の訴えの不適法却下(民事訴訟法345条1項)ではなく、それよりも前段階の訴状却下(民事訴訟法341条(民事訴訟法137条))の運命が待ち受けていることになります。

 

(4) 教訓

 以上のことから学ぶべきことは、手続法には手続法のルールがあり、それを守らないと、民法などで認められている権利を失うことになる、ということです。

 弁護士は、そういう結果になりうる手続法上の期間制限にも注意を払わなければならないのです。。

 

この関連で、訴訟代理人に弁護士がついていた場合には、弁護士に判決の送達などをするのですが、判決の送達を弁護士にはしないで、本人にしたにすぎず、弁護士はまだ判決の送達がないと安心していたところ、本人は弁護士に任せているからと安心して、自ら控訴しなかったとき、どうなるのでしょうか(最判昭和25・6・23民集4巻6号240頁参照)。

 

 ちなみに、東洋大学のときの同僚が、国選弁護人として上告棄却決定に対する異議申立期間を1日徒過してしまったことから、戒告処分を受けています(自由と正義2018年6月号)

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