監督義務者の責任

こんにちは。当事務所の代表をしています弁護士の芝です。

 先日、気になっていた事件の最高裁判決が出ました。
 事案は、夫(事故当時91歳)が認知症にかかり、徘徊の末、線路に立ち入り、列車にひかれ死亡したというもので、鉄道会社は、妻と長男に対して、列車の遅延等により被った損害の賠償を求めて訴えを提起したものです。第一審は、長男に対する請求を否定しましたが、妻に対する請求は認めていました。結論としては、最高裁は、鉄道会社の妻に対する賠償請求も否定しました。
  民法714条は、責任無能力者が行った不法行為について、その責任無能力者を監督する「法定の義務を負う者」に責任無能力者に代わって賠償責任を負わせるものと規定しています。また、「法定の監督義務者」とはいえなくても、諸般の事情を考慮して「法定の監督義務者に準ずる者」にも、この責任を負わせるのが判例です。
 同居の妻は、事故当時85歳で、要介護1の認定を受けていました。子供は4人あり、それぞれ独立しています。長男の妻が、単身で実家の近くに転居し、義父の介護をしていました。
 この判決で最高裁は、妻も長男も、「法定の監督義務者」あるいは「法定の監督義務者に準ずる者」といえないとして、民法714条の責任を否定したのです。

 ところで、この判決を下したのは、最高裁の第三小法廷で、5人の最高裁判事で構成されています。テレビでも放映されていましたが、裁判長は、岡部喜代子判事でした。
 岡部喜代子先生は、当事務所の三谷先生と同じく、私が東洋大学法科大学院でお世話になった先生です。
 東洋大学から慶應義塾大学に転任された後に、最高裁判事に任命されたのです。
 最高裁判事になられた後にお会いする機会があり、「先生すごいですね」と声をかけたところ、「そうよ、私が一番驚いているんだから」とおっしゃっていました。
 三谷先生は、岡部先生と共著で「実務家族法講義」(平成18年、民事法研究会)を執筆されています。
 三谷先生曰く「ラッキーやで、記念にとっとこ」とおっしゃっていました。結構、茶目っ気のあるお二人です。

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