11年も前の確定判決を取り消したって、ほんと? 1

こんにちは。弁護士の三谷です。

  ここでは、2018年(平成30年)8月8日15時4分に「YOMIURI ONLINE」で発信された「11年前の確定判決、異例の取り消し・・・東京高裁」の記事を参考に、民事訴訟法の話しを。

    1 確定判決ではない!

まず、見出しの「確定判決」は間違いです。11年前の裁判(前訴)で、敗訴判決を言い渡された女性(当時の被告)が控訴しなかったことから、敗訴した女性の控訴期間経過によって判決は確定します(民事訴訟法116条参照)

確かに、前訴では、女性の住所不明により、訴状も判決も公示送達によって送達されていました。公示送達による判決の送達の効力が生じて(民事訴訟法112条1項)から2週間の控訴期間(民事訴訟法285条)を経過すると、判決は確定します。

しかし、記事によると、公示送達の要件である女性の「住所、居所その他送達をすべき場所が知れない場合」(民事訴訟法110条1項1号)ではなかった、というのです。そして、東京高裁は、公示送達は無効だ、といっています。つまり、判決の送達が無効だとすると、じつは、控訴期間も進行しないのであり、判決は確定していないのです。では、どういうことなのか。

  2 補充送達の判例では、再審の訴え

記事の事例では、前訴の判決が確定したのに、なぜか未確定判決に対する上訴である控訴が提起されています。見出しの確定判決であれば、それに対する救済手段は、再審の訴え(民事訴訟法338条以下)になるはずですが。

補充送達の事例について再審の訴えを認めた最判平成4・9・10(民集46巻6号553頁;三谷忠之・判時1452(判評412)〔最新判例批評61〕)の判決要旨は、「1.訴状の有効な送達がないため、被告とされた者が訴訟に関与する機会が与えられないまま判決がされて確定した場合には、民事訴訟法338条1項3号の再審事由がある。 2.被告に対して判決正本が有効に送達され、同判決に対する控訴がされなかった場合であっても、被告において、訴状の有効な送達がないために訴訟に関与する機会を与えられなかったという再審事由を現実に了知することができなかったときは、民事訴訟法338条1項ただし書の適用はない。」(条文は、現行法の該当条文に修正)というものでした。この事例の前訴では、妻のAが、夫のX名でY特約店から買い受けた商品の代金の立替払をYに委託し、これに応じて同代金を立て替えて支払ったYがXに対して立替金及び約定手数料の残額並びにこれに対する遅延損害金の支払いを求めた訴えでした。

 送達は、名宛て人が直接受け取って初めて効力を生じるのですが、そうすると、出勤して妻が家に居ても夫への送達ができないことになり、非常に不便です。そこで、妻が代わりに受け取っても本人が受け取ったものとしてしまう補充送達の制度を設けたのです。通常は、妻は、夫宛に来た郵便物を隠すことはなく、夫に郵便物が来ていることを伝えて、夫が郵便物を確認できるはずです。ですから、妻が受け取った時に夫が受け取ったものとしてしまうのです。
この最判平成4・9・10では、妻が夫に内緒で夫名義のカードを作っていたために、裁判所からの送達物を妻が隠していたというものです。そして、有効な補充送達がされていたと解されるために、前訴判決は確定したことになり、未確定判決に対する控訴ではなく、確定判決に対する救済手段の再審の訴えが提起されたというわけです。
(続く)
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