不倫をめぐる法律問題(3)

こんにちは。弁護士の三谷です。本日は不倫をめぐる法律問題の最後となります。 1から読む。 


6 刑事問題

 不倫相手によっては、慰謝料請求額にからめて、もっと攻撃を仕掛けてくることもあり、合意だったはずが、強姦されたと刑事告訴をされて前科者になりうるのです。平成29年7月13日からは、強姦ではなく強制性交という表現になっています。5年以上の有期懲役の刑事制裁を受けることになります。同日から、被害者からの告訴がなくても公訴提起できることになり、親告罪でなくなっています。


 当然のことながら、親告罪でなくなったとはいえ、不起訴にしてもらうため又は減刑のために告訴を取り下げてもらう必要があり、まず示談成立が前提条件となります。当然、慰謝料額を増額して要求してくることが予想されます。払えなくて、示談不成立の憂き目を見ることになります。


7 懲戒処分など

 別のところから追い打ちをかけられることも覚悟する必要があります。

 通常は会社で働いているでしょうが、自己の会社での地位、不倫相手がだれかによって会社の信用を害したとして、辞職勧告や解雇されることまでありますよ。たとえば、東京地判昭和63・5・27は、同乗のバスガイドと昭和60年7月22日および同年11月6日の2回、勤務時間後品川区五反田のホテルで情交関係を結んだことが就業規則上の「賭博その他著しく風紀を乱す行為をしたとき」に該当するとして通常解雇を有効とした事例です。懲戒解雇でなくてよかった、というべきでしょうか。

 管理職などであれば、噂をかぎつけた輩に、報道機関に情報を流されたくなければ500万円よこせ、とか恐喝されることもあります。人の弱みに付け込む手合いはどこにでもいます。一度要求に応じると、いつまた要求してくるかもしれません。


8 裁判になれば

 また、夫婦・親子だけの間のことであれば、うまくいくと、非公開の調停または審判ですむことがありますし、人事関係事件では、原則として訴訟前に家事調停を経るべき調停前置主義が採用されています(家事事件手続法257条)。しかし、訴訟になれば、憲法82条で保障されている公開の法廷での恥のさらしあいになりかねないのです。たとえば、仙台地判昭和50・2・26のように、お互いに配偶者がいる場合には、夫からの妻と不倫関係にある妻の上司に対する慰謝料請求と、この上司の配偶者からの前記不倫妻に対する慰謝料請求という通常の給付訴訟が提起され公開法廷で併合審理される、という事態になるのです。もっとも、人事訴訟法22条1項では、一部非公開が認められてはいますが。


 前述の昭和54年の最高裁判決に関連して、最判平成8・3・26は、婚姻関係が破綻したあとかどうかで、第三者の他方配偶者に対する不法行為責任の有無を区別して、昭和54年判例は婚姻関係破綻前のものにすぎないことを明確にしています。しかし、これも、不倫をするのに必ずしも有利になるとは考えるべきではありません。なぜなら、結局は「破綻状態」かどうかの争いで裁判になり、数年を裁判に費やすことになるからです。しかも、事実上破綻していた夫婦関係にある妻からの、夫の不倫相手の女性に対する慰謝料請求を認めた東京高判昭和48・3・9が、この最高裁判決の前といえども、存在しているのです。また、すでに不和の状態にあった夫と情交関係をもち、同棲するに至った女性に対する妻からの100万円の慰謝料請求を認めた東京地判昭和55・3・4もあります。

9 不倫したいと思うあなたを狙う詐欺師たち

 ということで、最終的には、自己の家族を顧みないで不倫をした者が痛い目にあう確率が高いというお話しです。あなた、まだ「不倫してみたい!」なんて思いますか。


 男性が女性になりすまして「不倫したい」と出会い系サイトに投稿し、不倫希望の男性5人から「会員登録料」名目で計8万9000円をだまし取っていた事件もありました(http://www.asahi.com 2003.11.07 15:01「不倫したい男性だまし登録料 出会い系に女性装い投稿」)。この男性は、詐欺と組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益の隠匿)の疑いで福岡県警によって送検されました。また、女性を紹介するとだまして、保証金名目で計226万円をだまし取った男性2人が警視庁によって詐欺容疑で逮捕されていますが、その1人は、「約2800人から約2億8000万円を振り込ませた」と供述しているとのことです(http://www.asahi.com 2003.11.06 01:00「「保証金払えば女性紹介する」 詐欺容疑で男2人逮捕」)。


10 配偶者がいる者同士で妊娠した場合

 もっと恐ろしいこともあります。それは、双方とも婚姻中に不貞をして子供ができた場合です。しかも、妻が妊娠してしまった場合です。


 「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。」という民法772条1項の規定が、決定的な役割を演じます。

 推定するというだけですから、もちろん反対の証拠を挙げて覆すことができます。しかし、別居中であったとか、婚姻中に妻が夫以外の男と性交渉をしたからである、というような理由だけでは、推定を覆すことはできないのです。


 DNA鑑定があるというかもしれませんが、DNA鑑定に反しても嫡出推定を否定しなかった最判平成26・7・17や、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項の規定に基づき男性への性別の取扱いの変更の審判を受けた者の妻が婚姻中に懐胎した子は、民法772条の規定により夫の子と推定されるのであり、夫が妻との性的関係の結果もうけた子であり得ないことを理由に実質的に同条の推定を受けないということはできない、とする最判25・12・10があることは、みなさんもご存じと思います。


 では、三回に分けてお話させていただきました『不倫をめぐる法律問題』を終わらせていただきます。

TOP